譲れないものもある



本日、俺は仕事がオフで正宗の調子をみてもらおうとスラムにあるひっそりとした武器屋へと行った。店の奥から出てきたのはいつもの店主ではなくて今まで見かけたことの無い自分よりひとつふたつ下の女性だった。そもそもここの店主は今まで男一人で経営していたはずなのに、と疑問を持って、思わず尋ねていた。


「お前、いつからここで働いていたんだ?」
「えっと、いつからと言うか、とりあえず今日だけです」
「何故」


あまりこういう話に深く突っ込むのは好きではないのだが、気になった。彼女は***といって、色んな所へと出張している武器修理のプロらしい。普通に刃を叩いたり、とかそういうのではなくて特殊な魔法で傷を癒す事ができるという。ギルを取らない代わりに身寄りがない為宿泊をさせてもらっているらしい。此処まで聞いて「今日だけ」という理由がわかった。


「皆、マテリアを装備していないのに魔法が使えるなんて、しかも普通じゃないから…異端呼ばわりするんです。まあ、もう慣れましたけど、折角なら役に立てたいと思ったんです」
「…そうか」


淋しそうに眉を寄せて微笑んだ***の表情は憂いを帯びて、それが彼女を一層美しく見せた。自然な笑みに俺はいつの間にか魅入っていたらしい。恐らく、***は俺の事を知らないのだと思う。一応、神羅の英雄として知名人だというのは自覚しているし街を歩けば視線がこちらに向くのも知っている。それなのに俺の名すら呼ばない彼女は、十中八九普通の人間として見ているのだろう。…それが、余計に新鮮で。
いつもの店主は未だ出てくる気配がない。他の奴の鍛冶で忙しいのだろうか。ひとりでない分、作業に没頭できるというのは確かにあるが。俺の武器は、いつも此処でみてもらっている。他のところでは切れ味がしっくりこなかったり、なんとなく調子が出ないのだ。


「…と、まあ私の話はこのくらいでいいですよね。武器をお借りしてもいいでしょうか?オーナーさんに、ええと…セフィロスさんの武器は私に任されているので」
「お前がか」
「あの、駄目でしょうか」
「そういう訳では無いのだが…」


またこれもなんとなく、という言葉に表しにくいもので。***に俺の武器を触れてもらいたくないと思い手渡すのを躊躇った。嫌な意味ではない。ここの店主が信頼するほどの凄腕ならば任せられようが、俺の武器は恐らく、否、絶対に他の人間の武器よりも血塗れていて醜く、英雄という称号がそれを決定付けているのだ。幾多の武器を治してきた彼女もきっとこんなに使い込まれた武器はみたことが無いのではないかと思う。こんな物に触れさせたくない。初対面で、ほとんどお互いに何も知らないのだがきっと、彼女は心まで真白だ。だから俺のこの刀に触れれば紅く染まってしまうのではないかと、…ふあん、だ。


「やはり駄目だ。お前が触れるにはこの刀は汚れすぎている」
「どうして…」
「わからん。とにかくこの武器は店主に頼むことにする。それでだな、お前、住居が無い…のだろう」
「そうですね」
「もしよかったら俺と来ないか?」


不安なのは、刀に触れ、紅く染まった***をそのままにしておくことだ。自分以外の人間には扱えないこの刀、妖刀と言ってもあながち間違いではないとも思っている。だから、俺がずっと目の届く場所にいてほしいと、無意識に誘っていた。彼女の様子を伺うが、恐らく 自分なんかがお世話になってもいいのか と言った心境だろう。本当に俺の事…知らないらしいな。


「俺の名、どこかで聞いたことないのか?」
「セフィロスさん、ですよね、ええと…」
「神羅カンパニー、ソルジャークラス1stセフィロス、と言ってもわからんのか」
「…ッッ!あ、あの、セフィロス…ですか!?ほっ…本物!?ああああああの、ごめんなさい…それは聞いたことがあるのですがお顔を見たことが無かったので…」
「やはりな。だから、そんなに謙遜しなくてもいい。俺はできれば着いて来て貰いたい」
「わたしなんかで良ければ…迷惑かもしれないですが、お願いします…」


その答えを聞いた刹那、ぐっと彼女の腕を取って、店主の耳に入るくらいの声を出して言った。***は俺が預かる と。すると奥から 幸せにしてやれよ! と返事が返ってきた。…武器はまあ、今度でいいかと思いつつ***を見やると顔を真っ赤にして俯いていた。……そうか、もしかして俺はこいつが好きなのか。それもいいかもしれない。



(あの、お世話になる代わりにやっぱり貴方の武器をみせてもらってもいいでしょうか)
(みせる代わりに俺の元から離れないと誓え)
(…!)

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20090330




 


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